前回の記事で、ヘッドボイスを作っていく時に、まずリップロールを使って練習するのが効果的、というお話をしました。リップロールを使うことで、喉への負担を軽くしつつ、ヘッドボイスで響かせる鼻腔(鼻の後ろにある空間)に音を響かせていくことができる、というお話でした。
今回は実際に、その響かせていただいた音を、口からの声に融合させていきます。
ヘッドボイス、実践編
1.まずはハミングで
リップロールで響かせた鼻腔、顔の中心に響いている音を、まずはハミングで出してみましょう。口は閉じた状態でも、閉じずに舌をN音の位置(舌先が前歯の裏と歯茎との境目あたりに付いている)にしてもいいですね。ご自身のやりやすい形で行ってください。
顔の中心、鼻の穴から声が前に流れて出ているようなイメージ、けっして力を入れず、心地よいところで響かせてください。ン〜ン〜ン〜ン〜と、少し音階を付けて出してみましょう。
2.次にウの音を出してみます
次に、ハミングに一番近い母音、ウの音を使って出してみます。ウの音で顔の中心の音と口の音を融合させていく、というイメージです。先程のハミングをうまく使ってつなげるようにするといいですね。
例えば、口を閉じた状態で行っていたら、ンムゥ〜、という風に、M音を使ってウにつなげます。同様に口を閉じずN音の舌先からでしたら、そのままN音を使って、ンヌゥ〜と出すといいですね。ハミングの響きを口の中の響きと融合させ、一つの響きになるようにしてください。顔全体から声が出ている、とイメージするとやりやすいでしょう。
この響きが慣れてきたら、リップロールで行ったのと同じように中音域から高温域までをつないでみます。喉に力がなるべく入らないように気をつけてください。
どうしても喉に力が入ってしまう場合は、ウではなくフにすると力が抜けやすいです。ウ、やフの音で音階を付けて同じように上から下までやってみます。
3.さらに口の響きを広げていきます
ハミングと口の響きが少しずつ一つの響きになってきたら、最初にやったNの音を使って、さらに口の中の響きを広げていきましょう。この段階では中音域、ご自分の出しやすい音域だけで出してみてください。
例えば、ネイ、ネイ、ネイ・・・ですと、Nの音で声を鼻に抜く感じで毎回発音できますので、ヘッドボイスを響かせやすいと思います。さらにヘッドボイスを意識するために、最初少しンーと言ってからネイ、ンーネェィ、ンーネェィ、みたいに大げさに発音すると、さらにやりやすいですね。 この時、口はなるべく大きく動かし、舌が引っ込まないように鏡を見ながらチェックして行いましょう。
この時のポイントはエの口で横に開いているわけですが、さらに上あごの方、口を上の方に広げる気持ちで、エの音が上あごの方に響くように意識をするとさらにヘッドボイスに響きやすくなってきます。
次にM音、唇を閉じた状態からマァイ、マァイ、マァイ、と出していきます。唇を閉じた時に、音が鼻から抜ける音を作ることができます。唇を閉じた状態でンーと先に言ってから、ンーマァイ、ンーマァイ、としていくといいですね。
こちらも同様に、アを言った時に、アの音が上あごの方に響くように、口を大きく開けて、さらに口の中を上の方に広げる気持ちで行うとより効果的です。私がよく言うのですが、「アの音を上あごへぶつける気持ちで出す」と、さらにヘッドボイスが響きやすくなると思います。
4.母音の音を一つ一つ出していきます
ここまでくると、声が顔の中心、鼻腔と口と、かなり響いた状態を体が覚えているはずです。体が覚えている、ということは、意識をしなくてもしっかりと同様の響きを体が自動的に作ってくれる、ということです。
ここまで来て初めて、通常の母音にして他の母音を出していきます。順番ですとウ、イ、エ、オ、ア、と少しずつ口を大きく開く音にチェンジしながらやっていくとやりやすいと思います。
ご自分の苦手、得意の母音があると思うので、まずは得意の母音からやってみることもお勧めします。
この時にぜひ、自分の声がチェンジしてしまう音域まで広げて声を出してみてください。喉だけの響きから喉から口、顔の中心にまで響いている状態ですので、だいぶ力も抜けているはずですし、声が出やすくなっていると思います。また自分で、自分のこんな声聞いたない!というぐらいに声が響いているはずですよ。
また高温域でのどに力が入りそうになったらお腹にぐぐっと力を入れて、お腹で踏ん張ると喉に力が入るのを防ぐことができます。
体が覚えるまで、根気よく繰り返すことが重要です
今までの一連の流れ、基礎編から実践編までをざっとまとめてみます。
- まず鼻声をN音の状態で作り、声を鼻腔に響かせる。
- リップロールを使って鼻腔に響いた音に音階を付けていく。
- 鼻腔に響いた音でハミングを作る。
- ハミングと口との響きを融合させるためにウの音を使って出してみる、この時に、N音からのンーヌゥ〜、やM音からのンームゥ〜にするとやりやすい。その状態で自分の出しやすい範囲での音階を付けてみる。
- その音に慣れてきたら、N音からのネイ、ネイ、ネイというパターンを使って口の響きをさらに広げていく。慣れてきたらM音からのマァイ、マァイ、にする。いずれも、口を大きく動かし、さらに口の中を上に広げるつもりで行う。母音を上あごにぶつけるイメージ。
- 最後に、通常の母音で出してみる。ウ、イ、エ、オ、ア、と少しずつ口を大きく開く音にチェンジしていくとやりやすい。
こんな流れでご紹介しました。
今までもたくさんの方にボイストレーニングさせていただきましたが、やはりその場ですごく声が出るようになっても、一様にみなさん、「AKO さんにやってもらった時はできるんだけど、すぐ忘れちゃうんです・・・」という方がほとんどなんですね。これはある意味当然の流れなので、心配はいりません。
やはり今まで培ってきた日本語発音からの発声は、ちょっとやそっとじゃ直りません。だって今まで使ったことのない器官を使うわけですから、体の方は異変を感じると元に戻ろうとしてしまいます。なので、何度でも、根気よく行っていくことが必要です。
何度も何度も繰り返しやっていくことによって「体が覚える」んです。体が覚えてしまえばしめたもの、意識をしなくても自動的に体がやってくれます。
これは英語発音も一緒なんですね、今まで使ったことのない舌や口の筋肉を使うので最初は思ったとおりに動かないし、大変なんです、しかししっかりと筋トレをしていくことで新しいクセ付けを行って、意識をしなくても自然に正しい発音をしてくれるまでやり通す、このことが非常に大切になってきます。
先生が10人いれば10通りの教え方がある
これはあくまでも、私流のやり方ですので、他の先生がおっしゃることとは違う部分もあると思いますので、いろんなやり方があり、人それぞれの教え方がある、ということを踏まえた上で参考にしていただければと思います。
しかし、今までたくさんの方にボイストレーニングをさせていただいた経験で培ってきた方法で、しっかりと結果が出ている方法ですので、ご心配なく!
さて次回には最後の項目、4番目の「高い音域になってきても、同様にヘッドボイスを使って、裏声を芯のある強い音に作っていく」の項目を見ていきます。